第35回【行軍篇(3)】総括――地形篇へのブリッジ

『孫子の兵法』第九篇「行軍篇」

1. 行軍篇のエッセンスを再確認

テーマ行軍篇の指針関連する前章
偵察山林・沼沢・塹壑・城郭などを必ず下見する。「先察して後行く」計篇(事前分析)/虚実篇(敵情把握)
行速而不亂速さと秩序を両立させ、隊列を崩さない作戦篇(短期決戦)
地形の活かし方背山面陽・前沖後固・左高右下で布陣。危険地形は避ける形篇(不敗の形)/軍争篇(要衝確保)
民心の観察村人の出入りや風聞で安全度を測り、略奪は禁じる謀攻篇(戦わずして勝つ)
自然兆候風向・音・鳥獣・塵埃で敵の規模と距離を推測用間篇(情報戦)の伏線

2. 行軍篇が強調する「先備・先察・先制」

  1. 先備 – 背山面陽・前沖後固で宿営し、補給線を確保
  2. 先察 – 地形・民心・自然兆候の三面偵察
  3. 先制 – 十分な情報と有利地形を得てから移動・交戦

この 3 ステップは、軍争篇の「先手必勝」を行軍レベルで実装する具体プロセスです。


3. 行軍篇で示された「8つのチェックリスト」

#チェック項目要点
1ルート険阻・沼地・隘路を避ける代替経路を確保
2宿営地水・燃料・背山面陽・退路の 4 条件
3伏兵警戒林や丘陵の背後、沼地の内部を必ず索敵
4隊列秩序先鋒・中軍・殿軍の連絡を絶やさない
5村落の反応住民が逃げ出していないか、物価の急騰がないか
6自然サイン鳥獣動向・夜間の犬の吠え方・塵埃の高さ
7民生保護略奪禁止、物資調達は品目と量を限定
8情報更新昼夜 2‑3 回の偵察報告ループを維持

4. 地形篇への橋渡し

行軍篇が「偵察してから動け」と説いた理由は、次章 地形篇 で扱う 六地形(通・挂・支・隘・険・遠) を正しく識別するためです。

  • 通形 なら速く抜け、隘形 なら守りを固め、険形 は避ける … といった個別指針は地形篇で詳細化されます。
  • 行軍篇のチェックリストに沿って偵察を済ませていれば、六地形の判定が容易になり、地形篇の助言を即座に適用できます。

5. 現代応用:ロードマップ策定フロー

  1. 偵察 = 市場調査・法規制確認・ステークホルダー分析
  2. 宿営 = 労務・資金・サプライ契約を先に固める
  3. 移動 = 実装フェーズへ着手(行速而不亂)
  4. 民心 = 顧客・現場スタッフのフィードバックで異変検知
  5. 塵埃判断 = SNS や検索量の変化で競合の動向を察知

ビジネスでも 「先備・先察・先制」 をワークフローに埋め込むと、計画遅延や予期せぬコスト増を抑制できます。


6. まとめ

  • 行軍篇 は「動く前に徹底偵察し、速く・乱れず・民心を害さずに進め」という実務マニュアル。
  • 計篇での分析 → 軍争篇の先手 → 行軍篇の偵察 という流れで、勝つための下地が完成。
  • 次回からの 地形篇 では、行軍で目にする具体地形を 6 類型に分け、それぞれ 攻守・補給・退却 の最適行動を掘り下げます。

あとがき

行軍篇を読み終えると、孫子が 情報・地形・人心・補給 を “セット” で考えていたことが実感できます。
地形篇は、この「地形」要素をさらに精密に分類し、どう布陣し、どう避けるか を示す章です。行軍篇で学んだ偵察と秩序を土台にすると、地形篇の教えが一層生きてきます。

次回 第36回【地形篇(1)】 をお楽しみに。

コメント

タイトルとURLをコピーしました