第37回【地形篇(2)】六地形×奇正――状況別ベストプラクティス

『孫子の兵法』第十篇「地形篇」

1. “正合・奇勝”を地形に落とす

孫子は勢篇で「正合、奇勝(正で相合し、奇で勝つ)」と説きました。

  • = 正面布陣・定石
  • = 側撃・夜襲・偽装・陽動

地形篇ではこの鉄則を 「どの地形で正を取り、どこで奇を差し込むか」 へ具体化します。


2. 六地形の攻守マトリクス

地形あなたが守勢あなたが攻勢
通形正:高陽に陣し迎撃。
奇:側面から軽騎を放ち退路を切る。
正:正面縦深で圧迫。
奇:夜間に高所へ迂回し奇襲。
挂形正:補給路側を固守。
奇:険阻側に少数伏兵で逆襲。
正:糧に近い側で短期決戦。
奇:小隊を崖上に登らせ投石・騒音。
支形正:中央に留まり状況保存。
奇:敵が前進した隙に側撃。
正:陽動で敵を一方向に誘導。
奇:別動隊で背面出撃。
隘形正:狭路封鎖・木柵増設。
奇:谷上から転石・薪火。
正:急造木盾で突進は禁物→側壁登攀または水攻めで奇策。
険形正:山頂・峻坂で弓弩陣。
奇:裏道を熟知する地元民を活用。
正:攻勢を避け包囲・兵糧攻め。
奇:夜間霧時に梯隊で局所突入。
遠形正:機動を抑え守勢、糧道死守。
奇:敵の補給隊へ襲撃。
正:速戦即決が原則。
奇:補給線横から奇襲し自軍糧食補充。

3. ケーススタディ

ケース1:あなたが挂形の守備側

  • 地形:片側が街道・片側が崖
  • 敵状況:数で優勢、正面から突進を図る
  • 推奨策
    1. :街道側 50% の兵で塹壕+鹿砦。
    2. :20% の精鋭を崖上に上げ、敵が街道に殺到した瞬間に石・丸太を投下。
    3. 残り 30%:背面の糧秣と退路を固め、長期戦に備える。
  • ねらい:敵は「街道が開けている=掛形は攻めやすい」と思い込む。上方の奇襲で混乱させ、正面塹壕で消耗を強いる。

ケース2:あなたが遠形の攻勢側

  • 地形:広野を挟み補給線が長い
  • 敵状況:守備固めだが糧道は単線
  • 推奨策
    1. :前衛は日中に示威行動のみ。
    2. :夜間に軽騎兵を回し、敵の単線補給路を 2 箇所同時カット。
    3. D+2:敵が飢餓・動揺した時点で全軍総攻撃。
  • ねらい:遠形は長期戦が不利。自軍は糧秣を倍積み、“敵糧断ち”を奇策に据えて決戦タイミングをコントロール。

4. 奇策のタブー 3 カ条

#タブー理由
1隘形で火計上下風読めず延焼で自軍退路も閉ざす
2険形で馬突撃崖崩れ・落馬多発、勢いが殺される
3遠形で長期包囲兵站二重負担、先に自軍が窮す

奇策は地形に合わぬと自滅を招く点を再確認しましょう。


5. 現代への応用

地形イメージビジネス訳奇策の勘所
通形成長市場先行者利+ゲリラ販促で後発を分断
隘形ニッチ市場価格勝負回避。レビュー星5 固守+限定招待
険形高参入障壁業界標準策=規制遵守。奇策=提携で裏道を築く
遠形海外僻地拠点大手を補給線で疲弊させ、自社は JV で現地調達

6. まとめ

  • 六地形 × 奇正 を掛け合わせると、「いつ正攻法か、いつ奇策か」が明瞭になる。
  • 通・挂・支 は動きが取りやすい。奇策=機動戦。
  • 隘・険・遠 は補給と退路が制約。奇策=環境・心理を突く作戦が有効。
  • 地形篇を把握すれば、形篇(不敗)・勢篇(攻勢)の実装精度が格段に上がる。

次回予告

第38回【地形篇(3)】 では、六地形に加え『孫子』が挙げる 「三利の地」「三険の地」(斥沢・隩険・顛險 など)の派生バリエーションを取り上げ、より複雑な地勢判定と兵站線の取り方を解説します。

どうぞお楽しみに。

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