1. “正合・奇勝”を地形に落とす
孫子は勢篇で「正合、奇勝(正で相合し、奇で勝つ)」と説きました。
- 正 = 正面布陣・定石
- 奇 = 側撃・夜襲・偽装・陽動
地形篇ではこの鉄則を 「どの地形で正を取り、どこで奇を差し込むか」 へ具体化します。
2. 六地形の攻守マトリクス
地形 | あなたが守勢 | あなたが攻勢 |
---|---|---|
通形 | 正:高陽に陣し迎撃。 奇:側面から軽騎を放ち退路を切る。 | 正:正面縦深で圧迫。 奇:夜間に高所へ迂回し奇襲。 |
挂形 | 正:補給路側を固守。 奇:険阻側に少数伏兵で逆襲。 | 正:糧に近い側で短期決戦。 奇:小隊を崖上に登らせ投石・騒音。 |
支形 | 正:中央に留まり状況保存。 奇:敵が前進した隙に側撃。 | 正:陽動で敵を一方向に誘導。 奇:別動隊で背面出撃。 |
隘形 | 正:狭路封鎖・木柵増設。 奇:谷上から転石・薪火。 | 正:急造木盾で突進は禁物→側壁登攀または水攻めで奇策。 |
険形 | 正:山頂・峻坂で弓弩陣。 奇:裏道を熟知する地元民を活用。 | 正:攻勢を避け包囲・兵糧攻め。 奇:夜間霧時に梯隊で局所突入。 |
遠形 | 正:機動を抑え守勢、糧道死守。 奇:敵の補給隊へ襲撃。 | 正:速戦即決が原則。 奇:補給線横から奇襲し自軍糧食補充。 |
3. ケーススタディ
ケース1:あなたが挂形の守備側
- 地形:片側が街道・片側が崖
- 敵状況:数で優勢、正面から突進を図る
- 推奨策
- 正:街道側 50% の兵で塹壕+鹿砦。
- 奇:20% の精鋭を崖上に上げ、敵が街道に殺到した瞬間に石・丸太を投下。
- 残り 30%:背面の糧秣と退路を固め、長期戦に備える。
- ねらい:敵は「街道が開けている=掛形は攻めやすい」と思い込む。上方の奇襲で混乱させ、正面塹壕で消耗を強いる。
ケース2:あなたが遠形の攻勢側
- 地形:広野を挟み補給線が長い
- 敵状況:守備固めだが糧道は単線
- 推奨策
- 正:前衛は日中に示威行動のみ。
- 奇:夜間に軽騎兵を回し、敵の単線補給路を 2 箇所同時カット。
- D+2:敵が飢餓・動揺した時点で全軍総攻撃。
- ねらい:遠形は長期戦が不利。自軍は糧秣を倍積み、“敵糧断ち”を奇策に据えて決戦タイミングをコントロール。
4. 奇策のタブー 3 カ条
# | タブー | 理由 |
---|---|---|
1 | 隘形で火計 | 上下風読めず延焼で自軍退路も閉ざす |
2 | 険形で馬突撃 | 崖崩れ・落馬多発、勢いが殺される |
3 | 遠形で長期包囲 | 兵站二重負担、先に自軍が窮す |
奇策は地形に合わぬと自滅を招く点を再確認しましょう。
5. 現代への応用
地形イメージ | ビジネス訳 | 奇策の勘所 |
---|---|---|
通形 | 成長市場 | 先行者利+ゲリラ販促で後発を分断 |
隘形 | ニッチ市場 | 価格勝負回避。レビュー星5 固守+限定招待 |
険形 | 高参入障壁業界 | 標準策=規制遵守。奇策=提携で裏道を築く |
遠形 | 海外僻地拠点 | 大手を補給線で疲弊させ、自社は JV で現地調達 |
6. まとめ
- 六地形 × 奇正 を掛け合わせると、「いつ正攻法か、いつ奇策か」が明瞭になる。
- 通・挂・支 は動きが取りやすい。奇策=機動戦。
- 隘・険・遠 は補給と退路が制約。奇策=環境・心理を突く作戦が有効。
- 地形篇を把握すれば、形篇(不敗)・勢篇(攻勢)の実装精度が格段に上がる。
次回予告
第38回【地形篇(3)】 では、六地形に加え『孫子』が挙げる 「三利の地」「三険の地」(斥沢・隩険・顛險 など)の派生バリエーションを取り上げ、より複雑な地勢判定と兵站線の取り方を解説します。
どうぞお楽しみに。
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