第50回【総合総括(2)】演習ワークブック――13篇テンプレで“勝てる計画”を作る

総合総括

はじめに

本回は“読み物”ではなく“使うもの”です。まず、演習の指針として『孫子』の要句を抜粋で掲げ(章特定ではなく横断的引用)、つづいてテンプレート、最後に3 つの演習と解答例(骨子)を示します。


原文(演習指針の抜粋)

勝兵先勝,而後求戰;敗兵先戰,而後求勝。
非利不動,非得不用,非危不戰。
以正合,以奇勝。
攻其不備,出其不意。
先處戰地而待敵者佚,後處戰地而趨戰者勞。
多算勝,少算不勝,而況於無算乎。
火發上風,無攻下風。
五間俱起,莫知其道。

現代語訳(上の抜粋の意訳)

  • 勝つ段取りを先に作ってから戦う。利がなければ動かず、危険でもないのに戦わない。
  • 正攻法で相手をつかまえ、奇策で決める。相手の備えない所を、不意に突く。
  • 先到・先占が“佚(楽)”を生み、後手は“勞(苦)”を招く
  • 事前の算段(七計・KPI)を数で管理する。
  • 火を使うなら風上から、風下へは突っ込まない。
  • 情報戦は五間(郷・内・反・死・生)を同時運用し、全体像(神紀)で主導する。

1. テンプレート(そのまま使える雛形)

1-1. 七計スコアシート(計篇)

項目設問(○/△/×+10点満点)スコア根拠メモ
目的と利害は統一されているか
天候・季節・風向は有利か
地形・距離・要衝は押さえたか
指揮は決断・統率・柔軟を備えるか
組織規律・賞罰・補給は整ったか
兵力/訓練兵数・練度・士気は優位か
賞罰賞罰は明確・即時か
合計(/70)

実務目安:合計 60 未満は再設計、60–64 は限定実施、65 以上でGO 候補


1-2. 九地判定カード(九地篇)

  • 散地=自領浅部(戦わず再結集)
  • 軽地=敵領浅部(長居せず速進退)
  • 争地=双方に利(速戦
  • 交地=国境接触(和衆合隣=外交・民心)
  • 衢地=交通交差(物流・徴税で兵站化
  • 重地=敵深奥(=現地自活)
  • 圮地=悪地形(=速抜け)
  • 囲地=三面包囲(=空隙創出)
  • 死地=退路なし(死中求生)。

運用:いまの段階と次に移すべき段階を必ず二つ書く。


1-3. 五間オペレーション・チェック(用間篇)

  • 名簿化:守将・側近・取次・門衛・近侍は人名+連絡線があるか
  • 反間の「利→導→舍」三段は設計済みか
  • (地元風聞・物価・地理)・(制度・倉庫・鍵)をカバーしているか
  • 死間は“真実+少量の混ぜ物”で、敵の思い込みに寄せているか
  • 生間(帰報)は**期日・様式・検証(BDA)**が決まっているか
  • OPSEC:Need-to-know、二段階承認、リーク検知ルールは有効か

1-4. 火攻判断票(火攻篇)

  • 乾燥指数:□高 □中 □低 / 風向:□上風 □下風
  • 時刻:□昼(風長) □夜(風短)
  • 方式:□内火→外応 □外火単独
  • 目標:□火人 □火積 □火輜 □火庫 □火隊
  • 停止条件(No-Go):風下突入/市街延焼リスク/撤収線未設定
  • 費留回避:治安・撤収・接収・再補給の四点セット

1-5. 終戦SOP:費留を起こさない(火攻×作戦)

  1. 撤収線段階ゴールを事前に明示
  2. 治安部隊民生対策を同時展開
  3. 接収品の台帳化(誰が・何を・どこへ)
  4. 再補給線を 24–48h で再編
  5. 広報:一次情報のみ、情緒で動かない(非利不動)

2. 演習ケース(3 本)

演習①:争地→衢地の 48 時間作戦

状況

  • 河川渡河点(争地)と、その 15km 先の四差路(衢地)。敵は北から 1 個旅団が接近。
  • 乾燥期。正午前後に西風(強)。住民は中立。敵補給は北港。東 10km に倉庫群。

タスク

  1. 七計スコアを採点(/70)。停止条件を数値で書け。
  2. 渡河→四差路占領の**二段階タイムライン(D+2)**を作成。
  3. 五間運用:反間を中心に、鄉・內・死・生を同期。
  4. 火攻の可否判定(風・時間・目標・停止条件)。
  5. 九地判定を現在→目標の二段で記す(争地→衢地)。
  6. 費留回避:占領後 24 時間の撤収/治安/接収計画。

解答例(骨子)

  • 七計=64:GO(限定)。停止条件:集中比 <3:1、未橋梁で日没→延期。
  • タイムライン:D+0 渡河、D+1 夜間に側面へ 1 中隊回し、D+2 0900 四差路封鎖。
  • 五間:反間で北港の出港時刻把握→死間で**“東倉庫増援”誤認を流し、敵を東へ逸らす。鄉で浅瀬位置**、內で倉庫鍵を特定、生間は 6h ごと BDA。
  • 火攻:火庫・火輜上風・昼に限定、“市街延焼”発生で即停止
  • 九地:争地→衢地(兵站化)。
  • 費留回避:四差路は通行税化しつつ撤収線を南西へ。治安班 1、接収台帳化、D+2 夜撤収。

演習②:囲地から“謀”で突破

状況

  • 谷間で三面包囲。東の尾根に幅 200m の切れ目。糧食 36h。敵は夜間巡邏が疎。

タスク

  1. “謀”の三段(偽情報挟撃退路拡張)で突破計画。
  2. 五間のどれを要とするか、反間の「利→導→舍」を具体化。
  3. KPI:突破判定のGo/No‑Go 3 指標。

解答例(骨子)

  • 偽情報:南側に“脱出準備”の偽装→敵主力を南へ牽引。
  • 挟撃:外側救援隊と0100 同時突入、東尾根の切れ目を拡張。
  • 退路:工兵先行で倒木・土嚢車両 1 幅を 2 幅へ。
  • 反間:待遇+家族保護で転向、巡邏交替表を入手→で帰側させ継続供給。
  • KPI:①敵南側主力移動確認 ②東尾根視覚監視 0/5 分 ③切れ目 12m 拡幅達成。

演習③:背水なしで勝つ代替案(死地回避)

状況

  • 沼地に挟まれた狭路(隘形)。敵は正面強固。背水の陣も可能だが消耗大。

タスク

  1. 形×勢×虚実で、背水を使わない勝ち筋を作れ。
  2. 先手確保(軍争)と地形転換の組合せを示せ。
  3. KPI:攻勢投入のしきい値を数値で。

解答例(骨子)

  • 形:防御縦深+側面斥候で不敗を先につくる。
  • 勢:正面はで牽制、夜間に沼縁の固歩路を敷設→翌朝、側撃。
  • 軍争/地形:狭路を避け、通形の回廊に迂回路を設定。
  • KPI:集中比 ≥3:1、敵“不備命中率”≥60%、補給余力 ≥72h で攻勢 GO

3. 採点表(講評シート)

観点4(優)3(良)2(可)1(要改善)
事前計(七計)停止条件が数値化・実行可能一部数値化概念止まり未設定
先手・地形要衝先占+地形転換が両立いずれか片方影響が弱い無関係
奇正配分正で固定・奇で決めるどちらか過多場当たり無配慮
五間運用反間中核で重奏反間あり単独運用なし
火/水・費留停止条件とSOP完備どちらか不足机上欠落

まとめ

  • 読解→運用の橋渡しができれば、『孫子』は“再現可能な勝ち筋”になります。
  • 今日のテンプレは、**KPI(停止条件)撤収・治安(費留回避)**まで一体化しているかを常に点検してください。
  • うまくいかないときは、九変に立ち返り、地形・心理・情報のどこが固定観念になっているかを疑うのが近道です。

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