第5回【序章(5)】連載の進め方と原文テキストについて

序章

はじめに

前回までで、古代中国の戦乱の時代背景や、『孫子』がいかに体系的な兵法論として成立したかを概説してきました。今回は、これから始まる長い旅――すなわち「計篇」から「用間篇」までの全13篇を具体的に読み解いていくにあたっての“ガイド”となる回です。

「原文」→「現代語訳」→「解説」という流れを基本としながら、適宜コラムや事例も交えて展開していく予定です。ただし、『孫子』には異なる版本や数多くの注釈書が存在するため、本連載ではそのうちの一部を選りすぐって使用する形になります。本文への理解を深めるためにも、まずは下記のポイントをお読みください。


本連載で用いる『孫子』の底本・テキスト

(1) さまざまな版本

『孫子』は何千年にもわたり読み継がれるうちに、様々な版本が生まれました。代表的なものには「宋版」「明版」「清版」などがあり、さらに敦煌で発見された写本など、断片的なものを含めれば異同は少なくありません。また、歴代の注釈家(曹操や李筌、杜牧など)による注解の違いも考慮すると、決して一枚岩ではないテキストです。

(2) 本連載で採用する版

本連載では、比較的通行している「13篇」の基本構成をベースに、一般的な学術研究や翻訳において標準的に参照される底本を使用します。ただし、学術論文のように一字一句の異同に深入りすることは本旨ではありません。読者の皆さまが読みやすく、かつ忠実に内容を把握できるよう、必要に応じて各字句の差異を紹介する程度に留めます。

(3) 古注(古い時代の注釈)との付き合い方

  • 曹操注: 三国時代の魏王・曹操が付した注は、最古級の注解として有名であり、後世の注釈にも影響を与えました。
  • 李筌(りせん)、杜牧(とぼく)ほか: 唐代以降の名だたる軍人・文人が『孫子』に注を付しています。

これらの古注には、それぞれ独特の解釈があったり、軍事的観点や政治的観点などが色濃く反映されていたりします。本連載では、必要に応じて古注の一部を引用・参照することで、読者の理解をサポートします。


記事の構成と読み方

(1) 原文 → 現代語訳 → 解説の流れ

各回で取り上げる部分の「原文(繁体字 or 簡体字)」「現代語訳」を見比べながら、概念を確認します。その後、解説パートで補足説明や、現代への応用などを加えるイメージです。

  1. 原文
    • 基本的には『孫子』の漢文を引用します。
    • 文字が難しく読みづらい場合があるので、要点をしぼりながら掲載します。
  2. 現代語訳
    • 読者の皆様にとって分かりやすい口語訳を心がけます。
    • 直訳になりすぎると分かりにくい箇所は意訳を交える場合もあります。
  3. 解説・注釈
    • 重要なキーワードや歴史的背景、古注との比較などをコンパクトに紹介します。
    • 現在のビジネスや組織運営に活かせるポイントがあれば、実例や関連コラムも挿入します。

(2) 1篇あたりの連載回数

現時点では、各篇を概ね15回ずつに分割し、計13篇+序章の200回前後を予定しています。ただし、実際に執筆を進める中で、各篇のボリュームによっては回数の増減があるかもしれません。主要な区切りや見せ場(例えば「兵は詭道なり」「上兵は謀を伐つ」など)の前後で記事をわけ、なるべく読みやすいペース配分を考えています。

(3) コラム・実例・Q&A

  • コラム: 特に興味深いトピック(歴史上の戦例や有名企業での組織改革事例など)があれば、本文とは別枠でコラム形式で取り上げます。
  • ビジネス・心理学への応用: 各回の解説末尾やコラムで、現代社会における応用例を示す予定です。
  • Q&Aコーナー(予定): 読者の声やよくある疑問を拾って、まとめて回答する回を設ける可能性があります。

注目ポイントと読みどころ

(1) 『孫子』独特の言い回し

「兵は詭道なり」「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」など、『孫子』ならではの名言や印象的なフレーズが多数登場します。それらの言葉の背景を理解することで、“兵法”の枠を超えた人間・組織・戦略への洞察を得ることができるでしょう。

(2) 歴史的背景と合せて読む

春秋戦国時代の国際関係、当時の社会制度、儒家や墨家など他の思想との対比などを踏まえると、『孫子』が当時の知識人・武将たちにとってどれほど画期的な書物だったのかがよく分かります。

(3) 現代ビジネスへの活用ヒント

  • 戦略立案: 「計篇」で示される五事七計(ごじしちけい)は、企業戦略における事前分析や競合調査のモデルとして再解釈できます。
  • 組織マネジメント: 「勢篇」「形篇」には、組織内部のモチベーションや配置転換など、リーダーシップのエッセンスが詰まっています。
  • 情報戦・心理戦: 「謀攻篇」「用間篇」に登場するスパイや謀略の話は、現代の情報管理や交渉術の示唆としても活かせる部分が多いです。

ここから始まる本編

次回はいよいよ、本編の第1篇にあたる「計篇(1)」に着手します。「計篇」は全13篇の中でも、特に重要な基本的概念や勝敗を左右する条件(五事七計)などが提示される、大変重要な章です。本連載も、まずはこの「計篇」をじっくりと読み解き、戦略論の基礎をしっかり押さえていきたいと思います。

今後の記事では、あくまで“古典そのものを読む”ことを大切にしながら、同時に現代社会への接続も意識します。なるべく専門用語の解説や注釈も入れますが、もし分かりにくい箇所がありましたらコメントや問い合わせでお知らせください。臨機応変に補足や再解説を行います。


まとめ

第5回では、これから本格的に『孫子』を読んでいくための「準備」と「方針」についてまとめました。異なる版本や注釈の多さに少し戸惑うかもしれませんが、まずは本連載で扱うテキストと訳をベースに、全13篇を順番に追いかけていただければ問題ありません。

  • 各篇の原文→現代語訳→解説→応用例 という流れを基本とする
  • 複数の古注を参照しつつも、一言一句の異同には深入りし過ぎない
  • 戦略論として古代中国だけでなく現代にも通じるエッセンスを意識して読む

このようなスタンスで読み進めていきたいと思います。次回は「計篇(1)」として、早速『孫子』冒頭の原文を引用しながら内容を見ていきます。いよいよ本編スタートです。ぜひお楽しみに。


あとがき

  • 『孫子』研究の多様性
    軍事史、東洋哲学、中国古典文学、ビジネス書など、多様な角度から『孫子』は研究・紹介されています。本連載はあくまで「一つの読み方」です。他の文献や注釈と併読することで、さらに理解が深まるでしょう。
  • コメント・フィードバック募集
    「もっとこういうテーマを掘り下げてほしい」「ビジネスへの応用例を詳しく聞きたい」など、何かリクエストがあれば遠慮なくお寄せください。今後の連載で取り上げていく際の参考にいたします。

以上で序章は完了、次回からいよいよ『孫子』の本編に入ります。どうぞご期待ください。

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